「管理職だから残業代は出ない」と会社から言われたものの、実際には長時間労働をしていた。そんな悩みを抱える方は少なくありません。

本記事では、課長職に就いていたAさんが会社から未払残業代に相当する解決金約500万円の支払いを受けることで和解した当事務所の事例を紹介します。

この事案では、会社側はAさんが「管理監督者に当たる」と主張し残業代の支払いを拒否しました。しかし、労働審判において、解決金約500万円の支払いを会社から受けることで和解しました。以下、その事例について見ていきます。

相談者(Aさん)の基本情報

相談〜回収までの流れ相談から和解までに要した期間は半年程度)

相談~依頼

相談の中で、Aさんが課長職として長時間労働をしているにもかかわらず、残業代が支払われていないことが明らかになりました(Aさんは、当初、別の相談でいらっしゃいました)。

課長職ということなので管理監督者性の判断ポイントを確認し、管理監督者ではないと弁護士が判断したため残業代請求を行うことの検討を勧めました。

その後、Aさんは請求を行うことを決定し、鬼塚弁護士に依頼しました。

残業代は、退職しても請求することが可能ですが、賃金支払日から3年間の経過で時効にかかって消滅します。早めの対応が重要です。

会社への内容証明郵便の発送~資料の入手

受任してからすぐに、弁護士から会社に対して内容証明郵便を発送し、タイムカード等の請求に必要な資料を送付するよう通知しました。

その後、会社からタイムカード等の資料の開示がありました。

会社は、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負いますので(大阪地判平成22年7月15日労判1014号35頁)、基本的にタイムカードを開示してきます。

もっとも、会社がタイムカードなどの勤務記録を開示しない場合には、証拠の廃棄や改ざんを防ぐために「証拠保全」という法的手続を利用して、裁判所を通じて記録を確保することを検討します。これは残業代請求を有利に進めるための有効な手段です。

会社側が残業代の請求に応じないため、労働審判の申し立て

開示された資料をもとに残業代を算定し、会社に対して請求しました。しかし、会社側が請求に応じなかったため、地方裁判所に対して労働審判申立てを行いました。申立ては受任してから2か月程度で行いました。

申立書段階で、管理監督者に該当するとの反論がされることが想定されたので、反論を予想して管理監督者に該当しない旨の記載を詳細に行いました。

なお、労働審判手続とは、解雇や給料の不払など,個々の労働者と事業主との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です。

詳しくは、裁判所の公式サイト「労働審判手続のご案内」をご参照ください。

労働審判は、非公開で行われ、期日も3回以内に終了することが原則であるため、ご本人の精神的・時間的負担を抑えられ、特に残業代請求のような労使紛争には適した手段です。

加えて、弁護士に依頼した場合、労働審判は、証拠の整理や主張の構築を弁護士が担うため、ご本人のご負担は最小限で済みます。

会社から答弁書の提出

Aさんが管理監督者に該当する旨の反論が出されました。

なお、弁護士が受任した場合には、弁護士宛に会社の反論が届くので、直接応対する必要はありません。本件も同様でした。

労働審判期日

1回目(労働審判申立てから1か月半程度後)

請求する側はAさんと鬼塚弁護士、会社側は代表者と弁護士が出席しました。

なお、労働審判においては、労働者ご本人から事情を直接伺う必要があるため、ご本人にも手続に立ち会っていただくことになります。会社側の代表者等と同席することになりますが、直接話をすることは基本的にありませんので、ご安心ください。

まず自己紹介をし、次に双方の主張の説明をしました。

その後、裁判所からAさんと会社代表者に対して、管理監督者性を基礎づける各要素、具体的には、会社の経営に関する意思決定に参加しているか、勤務時間の自由があるか、一般社員と比べて明確に高い賃金が支給されているかについて、質問がされました。

Aさんは、上記の点について当職と事前に打合せ等をしていたので、裁判所の質問に説得的に回答することができました。

2、3回目(2回目の期日は1回目から1か月程度後、3回目の期日は2回目から1か月半程度後)

裁判所においては、会社の経営に関する意思決定に参加していない点を重視し、管理監督者性が認められないことを前提にして和解案が提示されました。その和解案を双方で検討することになり、最終的に和解が成立しました。

成功の要因

管理監督者性の否定に成功

弁護士による裁判例を踏まえた説得的な主張を行い、管理監督者性の否定に成功しました。

タイムカードの入手

タイムカードを早期に入手できたため、労働時間の立証をスムーズに行うことができました。

労働審判の選択

迅速な解決を図るため、労働審判を選択しました。

また、訴訟になれば未払残業代が倍になる可能性を会社側に認識してもらうため、労働審判申立段階からそのリスクに言及しました。

まとめ

今回の事案では、会社側が「管理監督者である」との主張を繰り返したものの、管理職が会社から、未払残業代に相当する解決金約500万円の支払いを受けることで和解しました。

もし会社から「管理職だから残業代は出ない」と言われている場合でも、以下の点を確認してみましょう。

  • 経営判断に関与しているか?
  • 勤務時間の裁量があるか?
  • 給与・手当は一般社員が残業した場合と比べて高いか?

上記に当てはまらない場合、未払残業代を請求できる可能性があります。まずは当事務所にお問い合わせください。