M&A代金の未払いが発生する典型ケース

M&A契約では、代金の支払いについて「クロージングの条件を満たしたときに支払う」という条件が設けられるのが一般的です。

クロージングとは、M&Aの契約手続がすべて整い、実際に株式や事業の引き渡しが行われることをいい、簡単にいうと、実際に会社の経営権が買主に移る最終段階のことです。

クロージングの条件には、たとえば以下のような内容が含まれます。

  • 許認可の移転
  • 株式譲渡書類の整備
  • 表明保証が「重要な点において真実かつ正確」であること

ここで問題になるのが、買主が売主の「表明保証に違反がある」として、クロージング後に一方的にM&A代金の支払を拒否するケースです。

クロージング後の支払拒否はできない

しかし、通常の中小企業のM&Aであれば、クロージングしたにもかかわらず買主がM&A代金の支払いを拒否することは法的には原則認められない、と考えられます。

実際の裁判例を見ていきましょう。

【裁判例】表明保証違反を理由に支払拒否した買主に対し、支払いが命じられたケース

(東京地判平成25年1月28日判時2193号38頁)

概要

株式譲渡契約において、代金を2回に分けて支払う旨が定められていたところ、買主は1回目のみを支払い、2回目の支払いを拒否。理由は「売主が重要なデリバティブ取引を開示しておらず、表明保証に違反しているから。」というものでした。

売主側は、表明保証違反にあたらないとして代金の支払いを求め、訴訟になりました。

裁判所の判断ポイント

裁判所は、以下の4つのポイントから、売主の請求を認めました。

①クロージング後の「表明保証違反」では支払い拒否は認められない

契約条項では、「表明保証が真実かつ正確であること」をクロージングの条件とする条項がありましたが、裁判所は次のように判断しました。

クロージングが完了する第二回支払期日までに買主が解除や離脱を選択しなかった以上、その後に表明保証違反が判明しても、損害賠償で処理すべきであり、取引から離脱することも代金の支払いを拒否することも許されない。

②買主に「二重の利益」を認めることにはなる

代金の支払いを拒否しつつ、経営権だけを手に入れるのは不公平です。
裁判所はこうした買主の行為が契約の趣旨に反するものであるとしました。

③株式譲渡後は原状回復が困難

M&Aにおける株式譲渡後は、経営権も移転しているため、元に戻すことは難しいです。
そのため、解除は限定的で、代金支払いを拒否する余地も狭く解されました。

④実際には、情報開示はなされていた

売主は、全デリバティブ取引を資料として開示しており、実質的な開示義務違反も否定されました。

契約書で未払いリスクを減らすチェックポイント

先ほどの裁判例を踏まえると、M&A契約において、次の内容を確認しておくことが重要だと思います。

  • 表明保証違反時の「効果」は明確か?(解除や支払拒否ができるとされていないか)
  • 「知り得る限り」や「重大な影響を及ぼす事項に限る」など、限定表現を設けているか
  • クロージング後に買主が一方的に代金支払いを拒絶できる構造になっていないか

M&A代金が支払われないときの売主の実務対応

  1. 契約書の精査 クロージング条項/解除条項/表明保証条項を確認
  2. 書面で催告 内容証明等で履行を請求し、支払遅延に法的根拠がないことを明記
  3. 弁護士による交渉・訴訟対応 仮差押え等も含め、証拠がある場合は迅速に法的措置をとる

まとめ

M&A契約で代金の支払いがなされない場合でも、契約構造・クロージングの有無・表明保証条項の解釈により、買主の支払い拒否には理由がないことが多いです。

「M&Aの代金が払われない」「契約通りに進んでいない」
そんなときは、契約書と実態に基づいた法的対応が不可欠です。

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