M&A仲介・FA契約での譲渡対価とは?

M&A(事業譲渡や株式譲渡)における仲介契約やファイナンシャルアドバイザー(FA)契約では、「譲渡対価」(譲渡価額とも言います。)という言葉が頻出します。

しかし、実務上この「譲渡対価」が何を指すのかが曖昧なまま契約が締結され、報酬額をめぐってトラブルになるケースが後を絶ちません。

たとえば、あるFA契約書では、以下のような定めが置かれています。

甲又は対象会社と候補先との間で本件取引が実行された場合には、甲は乙に対し、本件取引の対価の価額(以下「譲渡対価」という。)に応じて、各階層の「基準となる価額」に「乗じる割合」をそれぞれ乗じて算出した金額を合算した合計額を、本件取引実行後○日以内に、成功報酬として支払う。

※実務では「譲渡価額」「取引価額」「譲渡対価」などの表現が混在しますが、本記事では便宜上「譲渡対価」に統一して解説します。

ところが、この「譲渡対価」が一体何を指すのかは明らかではなく、「譲渡額」「移動総資産」「純資産」など、複数の可能性があるために、後から高額な報酬を請求されて驚くこともあります。

本記事では、M&Aの売主・買主双方からの相談に対応してきた福岡の弁護士が、「譲渡対価」の3通りの意味とトラブルの原因、そして対応策について解説します。

👉以下のような方はぜひ本記事をご覧ください。

  • 仲介業者又はFAから想定外の報酬を請求されたことがある方
  • 「譲渡対価」の意味がわからないまま契約してしまった方
  • 報酬トラブルを未然に防ぎたい方

【M&A仲介・FA契約】譲渡対価の意味は3通りある

M&A契約やFA契約で使われる「譲渡対価」は、次の3つのいずれか、または複数を組み合わせた意味で使われています(中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」63頁以下)。

① 譲渡額(譲受額)

最もわかりやすいのが、売主が受け取る金額、または買主が支払う金額そのものを基準とするパターンです。たとえば株式を1億円で売却する場合、その1億円が「譲渡対価」とされます。基準として明確で、売主・買主ともに納得しやすい方式です。

② 移動総資産額

譲渡額に負債額を加算した「移動総資産額」を基準とする方式です。たとえば、譲渡額が1億円で、引き受ける負債が5,000万円あれば、取引対価は1億5,000万円とされ、成功報酬もその額を基に計算されます。負債を引き受ける買主側にとっては、想定より高額な報酬負担になるケースもあるため注意が必要です。

③ 純資産額

資産から負債を差し引いて算出します。譲渡側が小規模企業の場合には、簿価純資産額を基準とすることがあります。債務超過企業においては、純資産がゼロ以下となるので、別の基準(前述の①または②)を基準とすることが多いです。

仲介・FA報酬の説明不足で想定外の金額を請求されるリスク

国のガイドラインでは、仲介者・FAは、報酬率、報酬算定基準(譲渡額/移動総資産額/純資産額)、報酬の発生時期、最低報酬額などを書面等で説明する義務があるとされています(中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」88頁)。

にもかかわらず、実務では十分な説明がなされずに契約締結が行われているケースも少なくありません。

たとえば、買主が「純資産3,000万円程度だから、報酬もそれを基に計算されるだろう」と思っていたのに、後から「移動総資産額5,000万円が基準です」と請求されると、「そんな説明は受けていない」とトラブルになるのです。

M&A仲介・FA契約の前に求めるべき説明とトラブル時の対応策

契約前の対応策

  • 「譲渡対価」の定義は何か、明示的に説明を求めましょう。
  • 書面(メールでも可)で定義や算定例の提示を求め、保存しておくことが重要です。

契約後に想定外の請求が来た場合の対応:

  • 「譲渡対価について何らの説明もなかった」ことを理由に、報酬請求の根拠が不十分であると主張できる場合があります。
  • 交渉や減額請求、必要に応じて法的対応を検討すべきです。

まとめ ~「譲渡対価」という言葉に潜む落とし穴

M&Aの世界では「譲渡対価」という言葉に明確な共通認識がないことが多く、報酬トラブルの原因になります。
FA・仲介会社と契約する際は、「何を基準に、どのように報酬が算定されるのか」を事前に確認し、書面での説明を受けることが、予期せぬ請求を防ぐ第一歩です。

なお、M&Aでは報酬トラブルだけでなく、契約後に買主から代金が支払われないといった深刻な問題が発生することもあります。
そのような場合の対応については、以下の解説記事も合わせてご参照ください。
👉M&Aの代金が支払われない?M&A代金の未払いトラブルの対処法【福岡の弁護士が解説】

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