■譲渡制限株式の買取業者から連絡が来たら・・・

非上場企業(同族会社)の経営者にとって、見ず知らずの第三者が突如として株主名簿に名を連ねようとする事態は、まさに悪夢です。しかし、焦って相手のペースで「買取り交渉」に応じてはいけません。その決断は、貴社を数千万円規模の予期せぬ損失に突き落とす引き金になりかねないからです。

譲渡制限株式の買取り要求は、単なる法律問題ではなく、会社を守るための重大な「企業防衛」の問題です。

数多くのM&Aを支援してきた福岡の弁護士が、令和6年7月12日に出された画期的な大阪高裁判決を踏まえて、経営者が直ちに取るべき「2つのステップ」を解説します。

結論から言うと、交渉ではなく「契約の無効」を突きつける。
これまで、法的手続を熟知した株式買取業者に対し、会社側は防戦一方になるケースが少なくありませんでした。しかし、令和6年7月12日の大阪高等裁判所判決(判例タイムズ1530号86頁)により、状況は一変しました 。

この判決は、業者のビジネススキームそのものを「弁護士法違反(非弁行為)であり、無効」と断じたのです 。

■ 知っておくべき「大阪高裁判決」の内容と結末

経営者が武器とすべきこの裁判例について、事案と結論を簡潔にまとめます。

【事案の概要】

ある買取業者が、会社の少数株主から、実際の企業価値(1株約356万円)を告げずに約3分の1という安値(1株120万円)で譲渡制限株式を買い取りました 。業者は会社に譲渡承認を求め、会社から拒否されれば会社側(指定買取人)に高値で買い取らせる裁判手続(売買価格決定申立)を利用し、その巨額の差額を利益として得ようと画策しました 。

【裁判所の判断】

大阪高裁は、弁護士法73条の趣旨が「みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりすること」を防ぐ点にあるとした上で 、業者の実態を以下の理由から同法違反と断じました。

  • 真の目的は「利ざやの獲得」である:株主として経営に参画するのではなく、最初から「譲渡承認が拒否されること」を見越し、裁判手続を利用して会社に高値で買い取らせ、その差額を自らの事業利益とすることを主な目的としていると指摘しました 。
  • 意図的に「紛議を助長」している:同族会社が譲渡を承認しない可能性が高いことを認識した上で、わざと「好ましくない株主」となることを示唆する事業活動を行っていたと指摘しました 。その上で、このような実態は「少なくとも本件株式の売買価格に関する紛議を助長するものというべきである」と明確に認定したのです 。
  • 正当なビジネスとは認められない:こうした実態は、本来の株主が投下資本を回収するための法的手続を自らの事業利益のために利用するものであり、「国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあるとは認められない」として、売買契約を無効と判断しました 。

【結論】

業者が他人の権利を譲り受けて訴訟等によって実行することを業とする行為は、弁護士法73条に違反するため、業者と元株主との株式売買契約は「無効」となりました 。 これにより、業者は株主の地位を完全に失い(株式は元の株主に留まる) 、会社側(指定買取人)が業者に対して支払うべき数千万円の代金債務は「一切存在しない」ことが確定したのです 。

つまり、業者の要求に応じる必要も、会社が1円も支払う必要もなくなったということです。

■ 経営者が必ず踏むべき「2つのステップ」

この判決は、不当な要求に苦しむ経営者にとって「最強の盾」となります。突然の通知が届いた際、経営者が取るべき具体的な行動は以下の2つです。

【ステップ1】「業者の実態」を見極め、安易な交渉の土俵に乗らない

まずは慌てず、相手が単なる投資家か、それとも法を潜脱する業者かを見極めます。

  • 買取価格のチェック: 実質的な企業価値より不当に安く買い叩いていないか?
  • 目的のチェック: 株主としての経営参画ではなく、会社に高値で買い取らせる「売買価格決定の申立て」等の裁判手続が前提の動きをしていないか?
  • 圧力のチェック: 過度な資料請求などを行い、わざと「好ましくない株主」を演じて会社に買い取りを強要していないか?

これらに該当すれば、業者の行為は違法である可能性が高まります。絶対に、相手のペースで「いくらなら買い取るか」という金銭交渉に入ってはいけません。

【ステップ2】「非弁行為による無効」を突きつけ、断固として退ける

ステップ1で業者の実態を把握したら、次は反撃です。今回の大阪高裁判決を武器に、「あなたの行為は弁護士法73条違反であり、株式の譲渡自体が無効である」と毅然とした態度で主張します 。

譲渡が無効であれば、相手は株主ではありません 。株主名簿の書き換えも、計算書類の開示要求も、すべて「無権利者による不当な要求」として突っぱねることが可能になります。相手のビジネスモデルの根本を否定することが、最大の防御にして攻撃です。

決断を下す前に、福岡の弁護士にご相談ください

こうした株式の不当な介入への対応プロセスについて、最初の一手が貴社の未来を大きく左右します。

「面倒なことになった、お金で解決しよう」「裁判になるのは避けたい」と安易な決断を下す前に、ぜひ一度ご相談ください。

福岡で企業法務・M&Aを支援してきた当事務所が、最新の裁判例に基づき、貴社にとって最もダメージの少ない最善の着地点を共に見つけ出します。

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